「よーし! もう少ししたらあの、自分の店で販売したい商品を仕入れすることが出来るぞ!」
喜びを噛みしめて、担当者から電話がくるのを待っていた。
「いらっしゃいませっ!」
その時の掛け声は普段よりテンションが高く、お客さんから
「今日は店長、元気だねっ!」
なんて言われながら接客していた。
がっ!
一時間ほど経っても、電話がかかってこない・・・・
2時間たってもかかってこない・・・・
3時間たっても・・・・・・
あ、そうか。
多分担当者の人は忙しくて納品とかで忙しいんだ・・・・
それとも大事な商談中?
なんて考えながら時間が経つのを待っていた。
いや、待たされていたんだ。
そのうち、日が暮れてきて夕方6時を迎えようとしていた。
りりりりりりり!・・・・・
電話が鳴ったっ!
きたで!きたで!きたで!
笑顔になりながら受話器を取る。
「お電話ありがとうございますっ!○○商店です!」
「あのーとおるですけど・・・」
とおる君かいっ!
「とおる君どうしたの?」
「店長・・・・元気ですね・・・」
「あ、ありがとう・・・で、どうしたの?」
「いや・・・あの・・・しゅく・・・しゅくだ・・・」
「あのしゅく?なんだそれ?」
「宿題があって・・・・・・お母さんがやってから行けって・・・・」
「あ、そうなんだ。で、何時ごろこれそう?」
「しゅ・・宿題は5.10分くらいで終わるから・・・・」
「はやっ!じゃあ、すぐ来れるね?」
「いや・・・・あの・・・・ふ・服が・・・時間かかって・・・」
「服?そんなのすぐ着て出ればいいじゃん?」
「あ・・あかんから・・・き・・きめないと・・かかって・・時間」
なんか変な日本語だけど、ようは自分が納得する服装でかっこつけたいって事か・・・
ま、プライド高いとおるくんだしな・・」
このころになるともう、とおる君の性格はなんとなくわかる。
接客を見ていても女性のお客さんには笑顔で接しているし、
なんか髪の毛を書き上げるしぐさが妙に多いし・・・・
それにジュースのケースを
2.3ケース一気に持ってきている!
男のお客さんには1ケースずつしかレジにもってこないのに・・・
どんだけかっこつけたいんだよっ!
そんなこんなでその日は終わり、結局電話が掛かってくることはなかった。
次の日、ある業者がやってきた。
「すいません。弊社は○○商会なんですけど、
腕時計の卸をやってまして
ぜひお取引をお願いしたいと思いまして。」
って、業者さんがやってきた。
○○商会?聞いたことない会社名だ。
「〇イエーさんとかにもお取引させていただいてまして・・・」
え、そうなの?じゃあ、それなりに信用できるんでは?
とか思って話を聞いて見ることにした。
「うちはあのドマーニを扱ってるんですよ!
あのドマーニをっ!」
いきなりこんな事を言ってきた。
ドマーニ?なにそれ?高いの?
大学出たばかりの僕はブランドに全然詳しくなかった。
店にある腕時計も、高いやつは無理だからせいぜいグッチあたり(安いやつ)しか置いてなかったんだ。
「ドマーニってブランドなんですか?」
僕は聞いて見た。
「知らないんですか?ドマーニを。
マリオ ザ ドマーニっていうブランドなんですが
あのクリスチャードドマーニの再来といわれたブランドです。
価格は後で提示しますが弊社はそのメーカーと
パートナーシップ提携してますから破格の価格で卸せますよ?」
って言われた。
マリオ・・・が良いのか悪いのかわからないけど、とにかくすごい自信だ・・・・
*後で思ったけど、クリスチャードの再来って・・・・まだクリスチャードって売ってるし・・・再来ってどういう意味だ?
「置いてもらえたらわかってもらえると思いますが、
見てくださいこの輝き!欲しくなるでしょ?」
そういって商品を見せてきたんだけど、それは当たり前だけど奇麗だった。
「そしてもう一つ弊社が自信を持っているブランドがあるんです!」
「それが あの マリオ バレンチノです!」
マリオバレンチノ・・・・なんか聞いたことがあるメーカーだなって思った。
「あの マリオ家が出している高級時計
それが マリオバレンチノ!」
価値はよくわからないけど、この商品にすごい自信があるのは伝わってきた。
1980年代のこの時はそんなにこのブランドって、高級時計だったのかな?
「話はよくわかったけど、高いと買えないよ?」
「良いですか?うちはマリオ ザ ドマーニの提携特約店です。
バレンチノもマリオがつくでしょ?同じような感じです。
だからどちらも破格値で卸せますよ?」
・・・・・・それってすごいのっ?!
そっか・・・マリオバレンチノとマリオ ザ ドマーニは同じマリオ家だから同じメーカーなのかな・・・
・・・なんかよくわからない・・・。
しばらく考え込んでいると、しびれを切らしたようにこういってきた。
「仕方がない。・・・・あなたはマリオ家のすごさを知らない。
そこでどうでしょう・・・委託という形で販売してみませんか?」
委託?
その時はそんな販売をしたことがなかったから聞いてみたんだ。
そしたら売れてから仕入れとして支払いをしてくれたらいいとの事。
そんな商売があるなんてその時は知らなかったから、興味がでてきた。
「委託ならいいよ。ほんとに売れるのなら、そこのショーケースに入れて販売するから。」
まあ、売れたら支払いでいいっていうのはリスクがなくていいなって思った。
「ありがとうございます。そしたら3日後に商品を持ってきます。
場所は・・・・このグッチの横においていいですか?」
おいおいグッチの横って・・・マリオ家たちはいくらで売ろうとしてるんだい?
「ドマーニですよ?定価は68000円が基準です。
それを今なら12800円で販売できます。すごいでしょ?」
そうなんだ・・・それはすごいな・・・定価68000円が12800円か・・・。
定価の意味ある?高すぎない?
って思ったけど、原価が5000円程だって聞いたから安心した。売れたら7000円程の利益がある・・
・・・すごいな。
「そのドマーニとかバレンチノとかって人気あるの?」
「店長さん・・・・ドマーニですよ?ドマーニ。
それとマリオバレンチノ!
この二枚看板置いて売れないってことがありますか?
・・・ふぅ・・」
なんだかすごい自信だ・・・・ほんとに売れそうな気がしてきた。
「今日はこれでおいとましますけど店長さん・・・・
あなたはドマーニのすごさをまだ知らない・・・」
っていって、去っていった。
それから3か月の間、ドマーニの凄さを思い知ることになる・・・・・